COLUMN

研修コラム

ITエンジニアがプロジェクト運営でつまずく3つの理由 開発リーダー育成に必要な視点とは

  • X
  • Facebook
  • LINE
  • Mail

技術力の高いメンバーをプロジェクトリーダーに登用したものの、あまりうまく回っていないようだ——IT業種の育成担当から、こうした相談は少なくありません。設計もコードレビューも安心して任せられた期待の人材なのに……と、周囲も、そして本人も原因をつかみ損ねています。
人材育成の難しさは業界を問わず共通しています。厚生労働省が2026年7月に公表した令和7年度「能力開発基本調査」では、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は80.1%にのぼりました。ただしIT・SIerの現場には、一般的な難しさに加えて、技術者からプロジェクトマネジメントの立場へ移るタイミングでつまずきやすい「特有の断層」が存在します。

本コラムでは、開発リーダーに登用されたITエンジニアがつまずく理由を分解した上で、防ぐために何を用意するべきかを考えます。

技術的判断とマネジメント的判断の違い

まず前提として押さえておきたいのは、つまずくのは技術面の能力の問題ではないという点です。

技術的な判断には、多くの場合「正解」があります。動くか動かないか、処理が速いか遅いか、標準や仕様に沿っているか。はじめは多少認識が分かれても、検証すれば収束していくため、優秀な技術者ほど正解を突き詰める訓練を多く積んでいます。
しかし、プロジェクトマネジメントの判断に「正解」はほとんどありません。品質を取るか納期を取るか。難易度の高い工程を経験者に任せて確実に進めるか、若手に振って育てるか。顧客の追加要望にどこまで応えるか。どれを選んでも失うものがあり、リーダーには選んだ理由を説明する責任が伴います。

つまり、リーダー登用とは「正解を突き詰める土俵」から「何を優先するかを決める土俵」へ移動することです。ここを組織も本人も自覚できていないと、今まで通り技術的な正解のみで突き進み、結果として顧客や自チーム間の調整でつまずいてしまいます。

開発リーダーがつまずく3つの理由

リーダー登用に存在する「判断の断層」に気がつかず、つまずいてしまう要因を、3つに分けて整理します。

①役割が言語化されていない
「リーダー」という肩書きを与えたものの、その役割がプロジェクトの何をどこまで決めるのかは明確になっていない、という状況は、判断基準が変わったことに気づけない大きな要因のひとつです。見積りの最終判断は誰が下すのか、顧客との仕様調整をどこまで受けるのか、メンバーの評価にどう関わるのか。これらの理解が曖昧なままだと、本人は「判断基準はこれまでの延長線上にある」と無意識のうちに思いこんでしまいます。

②利益構造が見えていない
開発の現場では、担当した機能が仕様通り動くかどうかは明確に見えます。しかし、自分の作業時間が原価にどう積み上がるのか、見積りの前提はどこで崩れるのか、プロジェクトの損益が何で決まるのかは、現場の視界にほとんど入っていません。工数と収益の関係を扱った経験がないまま見積りを行わせれば、判断の根拠がこれまでの経験値や勘になるのはある意味当然のことです。

③育成が登用の後になっている
多くの企業で、プロジェクトマネジメントの学習機会は登用後に用意されています。この場合、対象者は体系的な知識を得るよりも前に実案件で初めて判断を行うことになり、その失敗コストは顧客の納期や品質、メンバーの負荷として外に出てしまいます。

研修で実施すべきこと

では、判断の断層はどのように埋めるべきなのでしょうか。ここで着目すべきなのが「経験」の価値です。

技術・スキルは一定の正解が存在する領域であるため、体系的な知識獲得と反復が有効です。たとえばネットワークやクラウド、プログラミングなど、テーマ別の研修やeラーニングで積み上げやすく、到達度を測ることも比較的容易です。
対してマネジメント領域は、知識を得ても行動に直接結びつくとは限りません。研修で「品質・コスト・納期のバランスが重要だ」と学んだ人が、顧客から追加要望を受けた場でそれを活用できるかは別の問題です。

マネジメント領域の学びに必要なのは、判断し、結果を受け取り、なぜそうなったか振り返るというプロジェクトの一連の流れを実際に行ってみることです。経験の価値を踏まえずに研修を用意すると、内容が「管理の方法」といった手法・考え方の講義に寄り、受講後も「管理業務の重要性を理解した」「良い話だった」で終わってしまいます。知識で足りるものと、判断の経験を得なければ動作につながらないものは、切り分けるべきです。

座学で埋まらないものをどう埋めるか

判断の経験を実案件の外で積む方法として、シミュレーション形式の研修があります。開発プロジェクトの運営を疑似的に体験し、見積り、要件のすり合わせ、工程の配分、結果の集計までを一巡させる設計です。

研修として組むメリットは3点あります。まず失敗が顧客に及ばないこと、そして、判断から結果までの間隔が短く因果関係を追いやすいことと、立ち止まって振り返る時間が確保されていることです。
きちんと設計されたシミュレーション演習では、原因が複雑化した実案件では追いづらく見えにくいものが短時間で明らかになります。見積りの甘さがそのまま損益として跳ね返る。顧客への確認が不足して仕様に漏れが生じる。良かれと思った追加対応が納期を圧迫する。利益と工期を切り詰めて受注した判断が開発負担として現れる。メンバーの配置判断が結果に直結する。いずれも、頭で理解していた知識と、自身の判断で起きる現実の落差として、実体験を得ることができます。

リーダー登用の直前、あるいは候補者の段階でこうした経験を積んでおけば、実案件が最初の練習台になる事態は避けられます。

まとめ

開発リーダーのつまずきは、能力不足ではなく、判断の性質が変わる断層に気がついていないことから生じます。打ち手は3つ、リーダーに期待する判断の範囲を言語化すること、損益や工数といった構造を見せること、そして判断の練習を、実案件より前に置くことです。
開発リーダーを登用、もしくは育成する際には、彼らがつまずかずにスムーズにマネジメントを実行できるようになる学びを用意しておきましょう。


【プロジェクトマネジメント研修のご案内】
学研ビジネスブレインズのカスタマイズ研修では、プロジェクト運営を疑似体験する演習型のプログラムを、貴社の開発体制や案件の特性に合わせて設計できます。リーダー登用を控えた層への助走づくりから、登用後のフォローまでご相談いただけます。

≪研修例≫
・ITプロジェクトシミュレーション研修(合同形式):https://gakken-bb.co.jp/training/gt0902/
・システム運用シミュレーション研修 改善提案編:https://gakken-bb.co.jp/training/xt0904/
・中堅社員研修 ものづくりシミュレーション編(技能職向け):https://gakken-bb.co.jp/training/xt0601/

▶ ITスキル関連の研修ラインナップ:https://lp.gakken-bb.co.jp/it-skill

厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00233.html

おすすめ研修